矯正治療においても、できることとできないことがあります。歯科医師として、本来「出来ないことは出来ない」ときちんと言うべきなのですが、歯科医師が増えすぎて患者さんを奪い合う現状では、患者さんが少ない医院ほど、できないことでもできるような説明をしてしまい、後々トラブルになることが増えてきています。
本来医療とは、患者さんが希望されて治療するものなのに、歯科医師の方が患者さんを誘導したり、お願いして治療してもらう関係になってきているので、この治療結果と患者さんのイメージのギャップのトラブルも年々増えてきています。
最近の矯正相談でよくある相談が、長年床矯正をしているが、一向に治らないという相談です。床矯正という治療は、入れ歯のような取り外し可能の矯正装置で、安く簡単に治療できるということで今ブームになりかけています。
この床矯正という治療方法自体に問題があるというのではなく、矯正治療の経験の少ない歯科医師が、何でもかんでも床矯正治療で治そうとするから、床矯正難民が急増しているのです。
私自身、この床矯正方法を自分の治療にも取り入れているので、この治療法の長所も短所も十分に把握していますが、決して全ての患者さんに治療できる方法ではないのです。
床矯正治療法を行う場合には、患者さんの適応症をきちんと選択しなければ大きなトラブルになってしまうのです。
多くの矯正専門医は、床矯正治療を邪道扱いしてワイヤー矯正よりワンランク下の治療のように思っているのは、こういう何でもかんでも床矯正で治療する姿勢に対してではないかと思います。
床矯正治療が今のような普及の仕方を続けていけば、床矯正治療=低レベルの治療という図式になりかねません。
安い、簡単という理由だけで、治療を決断するのはどんなものかと考えさせられてしまいます。
36歳 男性
現在別の矯正歯科で、床矯正の治療を受けておりますが、治療が上手く行かないこともあり、最近は逆切れされることが多くなって参りました。付きましては、セカンドオピニオンを頂戴したく、一度はお伺いしたいと考えております。宜しくお願い致します。
矯正治療というのは、歯や歯周組織に負荷をかけて歯を動かしていきますので、それに伴うデメリットも発生してきます。それは歯医者の技術の問題である場合と不可抗力の場合とありますが、とにかくデメリットのリスクが存在していることは事実です。
患者さんに「自分のクリニックで治療を受けてもらいたい」という気持ちが強くなると、「臭いものにフタ」をするようにデメリットの説明を省いてしまいます。
矯正治療をするかしないかの最終判断は患者さんが下すことですから、歯科医師はその為の判断材料としてのメリットデメリットを客観的に知らせてあげる義務があります。
歯を動かすことにより、土台であるアゴの骨にも負担はかかりますので、歯槽骨が少しは減ってきます。
多くの場合、それが歯の寿命を短くしたり、問題が生じたりする類いのものではありませんが、歯の部分によっては、少しは食べ物が詰まりやすくなることもありますが、大抵の場合は気になる程のことではありません。
1)とも関係しますが、歯槽骨が減少すれば、それに伴い歯茎も痩せてくることもありますが、歯槽骨の厚みには個人差があり、ほとんどの場合には目に見えたような歯茎の退縮はないものですが、特に前歯の歯槽骨が薄い場合には前歯の歯茎が退縮する可能性があります。
硬い骨の中で硬い歯を動かしていきますので、1)の歯槽骨が吸収していくのと同じように、歯根にも吸収が生じる可能性があります。
歯を動かしていく際に、歯の中の神経が歯の動きについていけない場合に、その歯の神経が死んでしまう場合があります。
奥歯は大きく動かすことは難しいので、歯髄が切断されることは少ないですが、前歯で移動量が大きな場合や、成人で歯髄が細い場合などには、歯髄切断が生じることがまれにあります。
矯正治療には、上記のようなデメリットの可能性もあり、メリットばかりではないことを十分考えられた上で、矯正治療をされるかどうかをご判断下さい。
一般的に言いまして、上記のデメリットの低い可能性に比べれば、治療後の多くのメリットの方が断然多く、治療後には多くの患者さんが喜ばれ、矯正して良かったと感じられることとは思いますが、あまりにも過度な期待をされていたり、一切のデメリットを受け入れられない患者さんには、矯正治療に対して、再度考え直されることをお勧めいたします。
矯正治療は途中で治療を中止したり、転院することが難しいので、治療を決断される前に十分ご注意下さい。
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